Lotus78 History & Markings – Vol.19 1977 Rd.12 Austrian GP


今回はオステルライヒリンクで行われた1977年第12戦オーストリアGP(8月14日決勝)でのロータス78について取り上げます。シルバーストーン、ホッケンハイムと同じくこのサーキットも1987年のGPを最後に大改修を受けましたが、同じく高速サーキット、特に山岳地帯の裾野というロケーションのお陰でアップダウンも激しく、非常にスペクタクルなコースでした。また雨のレースと初優勝が多い事も特徴で、特に1975年にマーチのヴィットリオ・ブランビッラが豪雨の中初優勝のチェッカーを受けた時、熱狂のあまりステアリングから両手を離してガッツポーズを取った為、スピンしてピットロード出口のガードレールにクラッシュしてしまったのは有名な語り草となっています。そして1977年のレースでも雨が絡み、シャドウのアラン・ジョーンズがチームと自身にとっての初優勝を遂げたレースでした。

写真:1977年オーストリアGP決勝(LAP32/54)、地元レースで4位を走っていたニキ・ラウダのフェラーリ312T2をパスし、更に最終ヨッヘン・リント・カーブの入口で3位を走るジョディ・シェクターのウルフWR3のインに突撃するグンナー・ニルソンのJPS16(左)。リスキーな高速コーナー、しかも雨上がりでイン側の路面は濡れていて水溜りも残っている状況で、ドライタイヤで全く躊躇せず大胆に斬り込んだその姿に、ロータス78のコーナーにおけるアドバンテージと、この時ドライバーとして急成長中だったニルソンの絶対的な自信が伺える。(Motors TV


【FILE 50. 1977 Rd.12 AUSTRIAN GP – August.12-14.1977】 v1.0
JPS16(78/2) Driver: Gunnar Nilsson


参考資料:
・AutoSport 1977年10月15日号
・外部リンク >> 「A BOOKSHELF」
前戦西ドイツGPではレースカーのJPS16にトラブルが発生した為、スペアカーのJPS18でレースに臨んだグンナー・ニルソンでしたが、このオーストリアでは再びJPS16がレースカーとして充当されました。タバコ広告禁止だったイギリス、西ドイツの両GPを終え、マシンには再びJohn Player Specialのロゴが復活しています。しかし引き続き高速サーキットのレースの為、リアウィングは追加フラップの無いローダウンフォース仕様が引き続き使われており、ウィニング・ローレルも無い状態です。このレースからの特徴として、モノコック右側にあるキルスイッチの現示位置を表すマークが、これまでの「E」の文字を丸囲みしたデザインから、青地の三角形に赤い稲妻をあしらったデザインに変更されています(特記しない限り本GP以後に登場する全車に共通)。また、このレースではニルソンはコスワースのスペシャルDFVを使用した模様です。
ニルソンはこのオーストリアではプラクティスからトラブルに見舞われます。金曜にはショックアブソーバーが壊れて午前中のタイムを更新出来ずにポジションを落とし、更に土曜日には西ドイツに引き続きエンジンがブローしてスペアカーのJPS18に乗り換えたものの、結局金曜午前のタイムがベストとなり予選は16番手に沈みました。日曜の決勝スタート前、前夜から降った雨は上がって空からは陽が差し始めたものの路面はまだウェットという状況の中、各車は難しいタイヤ選択を迫られましたが、ニルソンは後方グリッドに沈んだ事もあってウェットタイヤで序盤に順位を稼ぐ作戦に出ます。レースがスタートすると、ニルソンはウェットタイヤのアドバンテージを活かして慎重に走る前車を次々とパスして1周目終了時で早くも7位に上昇、4周目にはアンドレッティに次ぐ2位にまで浮上します。しかし予想よりも早く路面が乾き始めてラップタイムが急激に落ち出したニルソンは10周目にピットイン、コースに戻った時には12位まで順位を落としてしまいました。しかしニルソンはまだハーフウェットのコースで今度はロータス78のコーナーでのアドバンテージを活かして得意の猛チャージを見せ、30周目には5位にまで順位を上げます。勢いの止まらないニルソンは32周目に4位を走るフェラーリのニキ・ラウダと3位を走るウルフのジョディ・シェクターのバトルも抜群のスピードで立て続けにパスして3位に浮上します。しかしニルソンの快走もここまでで、2位を走るシャドウのアラン・ジョーンズの背後に迫ろうとした38周目にコスワースのスペシャルDFVは周囲にパーツが飛散する程の派手なブローを喫し、ニルソンはベルギーに次ぐ2勝目も現実味を帯びてきた状況の中で無念のリタイアとなりました。

<外観上の特徴>
・フロントノーズのカーナンバー6はカギ部分が折れ曲がっているタイプ
・フロントウィング翼端板は舟形タイプ
・右側キルスイッチのデザイン変更
・リアウィング上面のウイニング・ローレル無し


<改訂履歴>
・v1.0(2012/03/18) 新規作成


【FILE 51. 1977 Rd.12 AUSTRIAN GP – August.12-13.1977】 v1.0
JPS17(78/3) Driver: Mario Andretti


参考資料:
・AutoSport 1977年10月15日号
・外部リンク >> 「A BOOKSHELF」
このレースで使用されたマリオ・アンドレッティのJPS17。注目すべきはサイドプレートの形状で、前下方部がこれまでの角張った形状から丸みを帯びた形状へと変化しています。尚、次戦オランダGPではこのサイドプレートと共にSuck-Downタイプ(プレートをパンタグラフ状に折り曲げた方式:詳細はオランダGP時に解説)が投入されていますが、このレースでは従来のSuck-Upタイプを使用しています。また文献ではアンドレッティはこのレースではニコルソン-マクラーレン・チューンのDFVを使用したとされていますがそのロゴの位置が確認出来る写真が無い為、サイドウィングのアップスイープで隠れてしまうカムカバー後下方に記入された可能性があります。
このGP前、対パンク性に優れた固めのタイヤを勧めるグッドイヤーに対し、ロータスのボスであるコーリン・チャップマンはロータス78のコーナーでのアドバンテージを活かす、よりソフトなタイヤを要求した為に両者の間で対立が起こります。しかし結局ソフトタイヤを使用する事が出来たアンドレッティはイギリス、西ドイツでの不振から脱出して3位のグリッドを獲得します。FILE.50で述べた通り、決勝は天候が回復するも路面はウェットという状況の中、アンドレッティは他の上位陣と共にドライタイヤでのスタートを選択、オープニングラップでマクラーレンのジェームス・ハント、そしてタイトルを争うフェラーリのニキ・ラウダもパスしてトップに浮上します。ハーフウェットの路面でロータス78のグラウンドエフェクトは大きなアドバンテージとなり、瞬く間に後続を引き離して独走態勢を築きました。しかし早くも12周目にアンドレッティのニコルソンDFVはブロー、3戦連続のリタイアとなり、しかもこのレースでもラウダは2位に入った為、アンドレッティはタイトル獲得がほぼ絶望的な状況に追い込まれました。チーム・ロータスにとってもイギリスGP以来両ドライバーで出走述べ6回中5回のリタイア、しかも原因は全てエンジントラブルという結果となり、更にこのレースでは同じくタイトルを争うハントもトップ走行中のレース終盤にニコルソンDFVがブローしてリタイアしており、ラウダのフェラーリ12気筒に対抗するDFV勢の苦しさが浮き彫りとなった結果となりました。

<外観上の特徴>
・サイドウィング前下部は丸みを帯びた形状
・フロントノーズのカーナンバー5は、カギ部分の根元が斜めにカットされた形状
・フロントウィング翼端板は半月形タイプ
・右側キルスイッチのデザイン変更
・リアウィング上面のウイニング・ローレル無し
・ニコルソン-マクラーレンのロゴは両バンク後下方のカムカバーに記入(推定)


<改訂履歴>
・v1.0(2012/03/18) 新規作成


【FILE 52. 1977 Rd.12 AUSTRIAN GP – August.12-13.1977】 v1.0
JPS18(78/4) Driver: Mario Andretti


参考資料:
・AutoSport 1977年10月15日号
・外部リンク >> 「A BOOKSHELF」
こちらはスペアカーとして持ち込まれたJPS18。どのセッションかは不明ですが、アンドレッティがこのスペアカーのコクピットに収まった写真が確認出来ます。ロールバーはアンドレッティ用の背の低いタイプ、そしてフロントノーズのカーナンバー5はFILE.45で紹介したのと同じくカギ部分が出ている旧タイプを使用しています。また、これまでJPS18では未記入としていたインダクションボックスのKONIロゴですが、このレースでは記入された状態が確認されています。

<外観上の特徴>
・フロントノーズのカーナンバー5は、スペインGPプラクティスで使用されたタイプ
・フロントウィング翼端板はやや丸い舟形タイプ
・ドライバー名なし
・右側キルスイッチのデザイン変更
・リアウィング上面のウイニング・ローレル無し


<改訂履歴>
・v1.0(2012/03/18) 新規作成


【FILE 53. 1977 Rd.12 AUSTRIAN GP – August.13.1977】 v1.0
JPS18(78/4) Driver: Gunnar Nilsson


参考資料:
・AutoSport 1977年10月15日号
・外部リンク >> 「A BOOKSHELF」
FILE.50でも述べた通り、ニルソンは土曜日のプラクティスでレースカーであるJPS16のエンジンをブローさせ、スペアカーのJPS18を使用しました。これはその時と思われるJPS18で、ロールバーはアンドレッティ用の背の低いタイプを使用、そして右側サイドウィングのカーナンバーももはやお馴染みのフロントノーズ用のステッカーを貼付した状態となっています。しかし今回はアンドレッティ用の「5」を残した状態て貼付されており、「6」の外側に「5」の一部が見えるという、かなり見栄えの悪い状態となっています(左側は推定)。特筆すべきはフロントのカーナンバーで、従来のスペアカー等で用いられた、カギ部分が折れ曲がっていないタイプをベースに、横幅がやや広がった新しい書体(サイド用のカーナンバーよりもやや幅が狭い)が使用されいます。

<外観上の特徴>
・フロントノーズのカーナンバー6は、カギ部分が折れ曲がっていない新タイプ
・フロントウィング翼端板はやや丸い舟形タイプ
・ドライバー名なし
・右側サイドウィングのカーナンバーはフロントノーズ用を代用(左側は推定)
・右側キルスイッチのデザイン変更
・リアウィング上面のウイニング・ローレル無し


<改訂履歴>
・v1.0(2012/03/18) 新規作成


ご意見、別考証・別見解など歓迎します。コメント欄をご利用ください。

– END –


2 thoughts on “Lotus78 History & Markings – Vol.19 1977 Rd.12 Austrian GP”

  1. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    A BOOKSHELFです。
    イギリス、西ドイツ、オーストリア、そしてオランダと4戦連続してブローアップしてしまうエンジンですが、
    コスワースはその原因特定に時間を要し、すぐに適切な対策が施せなかったようです。
    そして最終的には新開発のカムシャフトを使用した10psほどのパワーアップが、
    エンジンの性能限界を超えて他の部分の破損を引き起こしたとしています。
    その過程として、まずバルブギヤが破損してシリンダーの中に落ち込み、ピストンに当たる。
    そしてコンロッドがやられ、ガジョンピンを壊してしまう。
    しかしビックエンドのほうはクランクシャフトと一体に回転を続ける。
    この時期にエンジンを止めれば完全破壊を免れることができるが
    気がつかずそのまま回転を続ければ、破壊したパーツがクランクケースにぶつかり
    はねかえってもう一方のバンクに飛び込んでロッドを折り、ピストンをこわす。
    こうして完全破壊されたエンジンはアルミの破片をコース上にまき散らすこととなる。
    (イギリスGPではコンロッド、ピストン、ライナーなどの部品が辺り一帯に飛び散り、
    オイルや冷却水が流れ出しています。そしてオーストリアGPでも完全破壊に至っています。)
    こうなれば再使用できるパーツはカムシャフト、クランクシャフト、ボルト・ナット類くらいとなり、
    あとは二度と使い物にならなくなってしまうようです。
    これにより失った信頼性を取り戻すことに重点を置いたコスワースは、
    このカムシャフトの使用を止めたエンジンをイタリアGP、そして続くアメリカGPで使用することにしたようです。

  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    A BOOKSHELFさん
    ご無沙汰しています。コメント有難うございます。
    お陰様でこのブログの内容にテクニカルな深みが加わり、感謝しています。
    イギリスからオーストリアにかけて夏の暑さ、高回転を多用する高速サーキット、しかもフェラーリに対して劣勢な状況、そして努力してエンジンを改良した結果が更なるトラブルを生む、という事でコスワースもニコルソンもかなり苦しい状況に追い込まれていたようですね。レースだけでなくプラクティスも含めれば更に多くの回数エンジンが壊れていた事になりますから。ご指摘の通りエンジンが完全破壊してしまった訳ですが、イギリスでのアンドレッティは明らかに引っ張り過ぎでしたが、オーストリアでのニルソンは恐らく避けられなかったでしょうね。いきなりブローした模様ですし、オステルライヒはコース幅やランオフエリアはあまり広くないのでホームストレート先まで走らざるを得なかった様でしたから。
    今後ともよろしくお願いします。

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