今回は1977年のヨーロッパシリーズの幕開けとなるハラマでの第5戦スペインGP(5月8日決勝)におけるロータス78について取り上げます。前戦のUSGPウェストでシーズン初勝利を挙げたチーム・ロータスでしたが、ここスペインでもその余勢をかって快進撃を続けます。尚、今回の記事では新たにトライされたセンターマウント式のリアウィング装備状態を取り上げますが、スペインGP前に同サーキットで実施されたテストでの状態の可能性もある事をお断りしておきます。
※AutoSport誌1977年7月1日号の22ページにはサイドプレートが外された状態のJPS15(スペアカー)と思われるマシンの写真が掲載されています(FILE.17の状態に非常に近い。但しラジエーターアウトレットのフィン、ドライバー名、及びインダクションボックスのKONIロゴ無し)が、ここでは割愛させて頂きます。
写真:1977年スペインGP決勝(LAP1/75)、ポールポジションからスタートダッシュを決め、2位を走るジャック・ラフィーのリジェJS7を大きく引き離したマリオ・アンドレッティのJPS17。1周目で勝負を付ける「マリオ戦法」の真骨頂と言えるシーン。この週末、終始異次元の速さを見せつけたアンドレッティは、レースでも一度もテールを脅かされる事なくポールtoフィニッシュで圧勝、その速さにはマクラーレンなど他チームから、アンドレッティに対してスペシャルタイヤが与えられているのではないか?と疑義が投げかけられた程だった。(ZDF)
【FILE 23. 1977 Rd.05 SPANISH GP – May.06-07.1977】 v1.0
JPS16(78/2) Driver: Gunnar Nilsson
参考資料:
・John Tipler著「Lotus 78 & 79 – The Ground-Effect Cars」
まず最初に紹介するのは、このブログ記事でも主要な参考文献にさせてもらっている、John Tipler著「Lotus 78 & 79 – The Ground-Effect Cars」P100に掲載されているセンターマウント式のリアウィングを装備したグンナー・ニルソンのJPS16。因みにキャプションではキャラミでの撮影と書いてありますがこれは誤りです(本書では珍しい)。他にもSutton Imagesにはカラー写真が掲載されていますし、F1 Modeling Vol.20のP20には図面も掲載されています。尚、トランスミッションのマウント部分を側面から写した鮮明な写真が無い為、イラストではある程度推測で作成しています。このセンターマウントは翼断面形状をしており、後部にはテールライトが装着されています。また、左側下部にはオイルクーラーがマウントされています。従来のアルミ製のプレート2枚で支持されていた方式に比べて空気抵抗は少なそうですが、角度調整等の柔軟性が無い為か、結局このウィングは後に渡ってレースで使われる事はありませんでした。それ以外にも幾つかモディファイが加えられていますが、これについてはFILE.25で詳細に述べます。
<外観上の特徴>
・フロントノーズにフィン追加
・ユニオンジャックがフロントノーズのオイルクーラー前部に移動
・フロントノーズのカーナンバー6は、右上のカギ部分が折れているタイプ
・フロントウィングにガーニーフラップ追加
・フロントウィング翼端板は楔形タイプ
・リアウィングはセンターマウントタイプ
・リアウィング上面のJohn Player Specialの文字はストライプの枠外、延長フラップに掛かって記入
<改訂履歴>
・v1.0(2011/10/15) 新規作成
【FILE 24. 1977 Rd.05 SPANISH GP – May.06-07.1977】 v1.0
JPS17(78/3) Driver: Mario Andretti
参考資料:
・John Tipler著「Lotus 78 & 79 – The Ground-Effect Cars」
マリオ・アンドレッティのJPS17にも、同様のセンターマウント式のリアウィングが装備され、テストされました。JPS16と同じくJohn Tipler著「Lotus 78 & 79 – The Ground-Effect Cars」P99に正面から撮影した写真が掲載されています。この写真もP100の写真と同時期に撮影されたと思われ(但し、P100でJPS16と一緒に写っているJPS17は通常タイプのリアウィングに戻されている)、同じくキャラミでの撮影としているキャプションは誤りです。恐らくこのセンターマウント式リアウィングは1器のみ持ち込まれ、アンドレッティとニルソンが交代で取り付けてテストしたものと思われます。尚、FILE.23と同様にこれ以外のモディファイについてはFILE.25及び26で詳細に述べます。
<外観上の特徴>
・フロントノーズにフィン追加
・ユニオンジャックがフロントノーズのオイルクーラー前部に移動
・フロントノーズのカーナンバー5左下のカギ部分が短縮される
・フロントウィングにガーニーフラップ追加
・フロントウィング翼端板は半月形タイプ
・リアウィングはセンターマウントタイプ
・リアウィング上面のJohn Player Specialの文字はストライプの枠外、延長フラップに掛かって記入
<改訂履歴>
・v1.0(2011/10/15) 新規作成
【FILE 25. 1977 Rd.05 SPANISH GP – May.06-08.1977】 v1.1
JPS16(78/3) Driver: Gunnar Nilsson
参考資料:
・AutoSport 1977年7月1日号
・外部リンク >> 「A BOOKSHELF」
こちらが通常タイプのリアウィングに戻されたスペインGPでのニルソンのレースカーとなったJPS16です。前戦のUSGPウェストでJPS17に装備されたフロントノーズ先端に小型のフィンが同様に装備されました。加えてこれまでコクピットカウルに記入されていたユニオンジャックがフロントノーズのオイルクーラー前方に移動しています。また、中速テクニカルでアップダウンの激しいハラマに対応して、ロングビーチと同様のリアウィング延長フラップを装備していますが、ロングビーチではJohn Player Specialの文字がメインウィング上に記入されていたのに対して、このハラマではフラップ部分に跨って記入された結果、完全にJPSストライプの枠外にはみ出した形になっているのも特徴です。尚、リアウィング下面(後方)のJohn Player Specialの文字は、ロングビーチと同様にメインウィング上に書かれており、フラップには掛かっていません。
スペインGPのプラクティスを特にトラブル無く消化し、12位のグリッドを獲得したニルソンでしたが、タイムでアンドレッティに対して2秒近くもの差を付けられた事にショックを受けます。本来ハードなブレーキングとアグレッシブなターンを身上とし、前年はロータス77でアンドレッティとしばしば互角の走りを見せたニルソンでしたが、グラウンドエフェクトのロータス78にはそのドライビングスタイルがマッチせず、更にアンドレッティのドライビングを真似ようとした結果、自分のドライビングをも見失ってしまうという悪循環に陥ってしまいます。ここでボスのコーリン・チャップマンは、レース前ニルソンに対し「自分のドライビングに集中し、スムーズなドライビングを心掛けよ」とアドバイスを与えます。結果このアドバイスが功を奏してニルソンはロータス78のドライビングのコツを掴み、レースでは安定したペースで次々にポジションを上げ、結果アンドレッティと同一ラップの5位に入賞しました。そしてこのレースをきっかけとして、ニルソンはその後シーズン中盤にはトップ・コンテンダーに加わるまでに急成長する事になります。
<外観上の特徴>
・フロントノーズにフィン追加
・ユニオンジャックがフロントノーズのオイルクーラー前部に移動
・フロントノーズのカーナンバー6は、右上のカギ部分が折れていないタイプ
・フロントウィングにガーニーフラップ追加
・フロントウィング翼端板は楔形タイプ
・リアウィング上面のJohn Player Specialの文字はストライプの枠外、延長フラップに掛かって記入
<改訂履歴>
・v1.0(2011/10/15) 新規作成
・v1.1(2012/03/05) フロントノーズ先端のフィンに関する記述を訂正
【FILE 26. 1977 Rd.05 SPANISH GP – May.06-07.1977】 v1.0
JPS17(78/3) Driver: Mario Andretti
参考資料:
・AutoSport 1977年7月1日号
・外部リンク >> 「A BOOKSHELF」
マリオ・アンドレッティのJPS17も、結局通常タイプのリアウィングに戻されました。尚この状態はプラクティスでの状態と思われ、レースでは次のFILE.27の状態になります。基本的にはFILE.25のJPS16と同様のモディファイを受けており、フロントノーズに追加フィンを装備、そしてリアウィングのJohn Player Specialの文字もリアウィング後端の延長フラップに跨った形で記入されています。特筆すべきなのはフロントノーズのカーナンバー5で、ロングビーチで使用されていた書体をベースにしながらも、左下のカギ部分末端がやや短縮されており、結果左下の開いた部分が広がった格好になっています。これまで遠目に見た時ニルソンの「6」との識別が難しかったのが、これでやや識別し易くなりましたが、アンドレッティのカーナンバーの書体は、この後も変遷を続けます。
ハラマでのアンドレッティはまさに絶好調の状態で、初日午前から2番手となったリジェのジャック・ラフィーに対してコンマ7秒もの大差を付けてトップに立ちます。ポールポジションは確実と読んだアンドレッティは、午後には早くもレース・シミュレーションとタイヤ評価に取り組む余裕を見せます。事実2日目も初日のタイムは破られず、アンドレッティはシーズン初のポールポジションを決めました。
<外観上の特徴>
・フロントノーズにフィン追加
・ユニオンジャックがフロントノーズのオイルクーラー前部に移動
・フロントノーズのカーナンバー5左下のカギ部分が短縮される
・フロントウィングにガーニーフラップ追加
・フロントウィング翼端板は半月形タイプ
・リアウィング上面のJohn Player Specialの文字はストライプの枠外、延長フラップに掛かって記入
<改訂履歴>
・v1.0(2011/10/15) 新規作成
【FILE 27. 1977 Rd.05 SPANISH GP – May.08.1977】 v1.1
JPS17(78/3) Driver: Mario Andretti
参考資料:
・AutoSport 1977年7月1日号
・外部リンク >> 「A BOOKSHELF」
こちらが5月8日の決勝でのJPS17の姿。先のFILE.26とほぼ同様ながら、フロントノーズのカーナンバー5は更に変更を受けます。FILE.26ではカギ部分の先端がやや短縮されましたが、決勝ではカギの根元部分をテープで塞いで水平な状態としており、結果左下の開いた部分が更に広がった格好になっています。
決勝を迎えてもアンドレッティの好調さは変わる事なく、ポールポジションからスタートダッシュを決めると、2位のラフィー以下をあっと言う間に引き離します。その後12周目にラフィーがホイールナットの緩みが原因でピットインすると完全に独走状態となります。アンドレッティは後続のペースに合わせてペースダウンする程の余裕を見せ、結果2位となったフェラーリのカルロス・ロイテマンに対して16秒近い大差を付けて優勝、ロングビーチに続く2連勝となっただけでなく、ニルソンの5位入賞と合わせてシーズン初のダブル入賞となり、ライバルにロータス78の速さを見せつけたレースとなりました。
<外観上の特徴>
・フロントノーズにフィン追加
・ユニオンジャックがフロントノーズのオイルクーラー前部に移動
・フロントノーズのカーナンバー5はカギ根元部分をテープで塞ぎ、根元が水平な状態になる
・フロントウィングにガーニーフラップ追加
・フロントウィング翼端板は半月形タイプ
・リアウィング上面のJohn Player Specialの文字はストライプの枠外、延長フラップに掛かって記入
<改訂履歴>
・v1.0(2011/10/15) 新規作成
・v1.1(2011/10/20) フロントのカーナンバーに関する記述を修正(Thanks to A BOOKSHELFさん)
ご意見、別考証・別見解など歓迎します。コメント欄をご利用ください。
– END –
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A BOOKSHELFです。
アンドレッティの快走を支えるデファレンシャルのセッティングについて当時のCAR GRAPHICの記事から抜粋します。
ロータスの関係者は名言を避けているが、アンドレッティ用のそれは事実上完全なデフロックに近いほどロッキング・エフェクトが高いらしい。これなら加速時の駆動力伝達が滑らかに行われるのも当然だが、良いことばかりとはいえない。この種の車では、いかなる場合にも、パワーを与えられると車はやみくもに真っ直ぐ進みたがるし、逆にタイヤの設置力の限界を迎えると瞬間的に激しく滑り出してすべての駆動力を失ってしまう。そこでコーナーリング中は急激なスロットル操作を控えて可能な限り滑らかに走り、テールスライドを最小限に抑え、立ち上がり加速のところで一気にフルパワーを与える、きわめて繊細な操縦が要求される。事実、アンドレッティの操縦はまるでレールに乗ったように円滑で無駄がない。スムーズなコーナリングと加速時の駆動力にすべてを負う、楕円形トラックでのUSACレースで鍛えられた腕が物を言っているのだとすれば、これは非常に興味深い。(尚、同年のベルギーGPからデフが改良され、ノンスリップの度合いがアジャスタブルできるようになったようです。)
またスペインGPでは、ニルソンがヒューランドFGA400-6(前進6段)を使った記述がありました。ただし、シフトの感触と確実さには改善の余地が多く、2速から3速へのシフトが渋かったようです。
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再びA BOOKSHELFです。
【フロントノーズのカーナンバー5左下のカギ部分が変更、根元が水平な状態になる】
これは黒色のテープ貼付による簡易補修のようですね。
私のブログ・Lotus78②に写真を追加しましたので、ご覧ください。
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A BOOKSHELFさん
いつもありがとうございます。
デフについてはTiplerの本でも、「デフを使わず、タイヤの柔軟性だけでデフ効果を得て走っていた」との記述がありました。しかしストップ&ゴーなハラマでデフ無しとは、相当な技術が必要でしょうね。カートみたいにインリフトさせる訳にも行かないですし。しかしその分立ち上がり加速の良さでそれを埋め合わせるドバンテージを得ていた、という事なのでしょうね。
ストリートのロングビーチやモナコ同様のかなりハイダウンフォースなリアウィングを使っていた理由も、デフの事を考えると何となく判る気がします。
あと、カーナンバーについての貴重な情報・写真ありがとうございます!
てっきりモナコの時と同様のデザインだと思い込んでました。
しかしさすがの情報量ですね。またまた勉強になりました。
(記事・イラストも加筆修正しました)
今後も宜しくお願いします。